国際温泉評論家 山本正隆のココシカ温泉談義
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温泉に泊まりながらスイス・フランス・イタリアの古城を巡る(2012)

     その1       モルシャッハ温泉とシグリスヴィル温泉

温泉に泊まりながらスイス・フランス・イタリアの古城を巡る

 古い仲間の一人に関西では少々名の知れた古城評論家がいる。海外の古城も観ておきたいというので数年前に「温泉に泊まりながら ドイツ・スイス・オーストリア古城巡り(2003)」を企画し、仲間5人で行ってきた。「温泉に泊まりながら」が気に入ったとみえてまた行きたいという。そこで今回はスイスを中心にフランスとイタリアを加えた13日間の古城巡りを企画した。古城巡りを趣味にしている人がそんなに多くいるとは思えないのだが、定年後に時間を持て余してくると、他人の趣味も面白そうに思えてくるものだ。結局、登山電車に乗ってみたい、左ハンドルでドライブしてみたい、山の写真を撮りたいなどの人達が、ひょっとすると古城も好いかもしれないと集い、6人で出かけることになった。自称・国際温泉評論家が企画する旅であるから、もちろん泊まりは原則温泉地である。
 結果は9人乗りのレンタカーで約2200キロを走り、25の古城・2ヵ所で登山鉄道・3ヵ所のアルプス展望台・5か所の温泉を巡ることができた。

モルシャッハ温泉再訪

 スイスの玄関口チューリッヒへの直行便はスイス航空(ANAと共同運航)しかない。乗継便にすると格安航空券も入手しやすいのであるが、初日から温泉に浸かって気持ちを高めようとすると、あまり遅く着くのは困る。スイス航空なら午後4時に着くので、日の長い春から初夏にかけては、空港から150キロ程度の距離までの温泉なら、ゆっくりと浸かる時間が十分にとれる。温泉を優先して少々の割高運賃には目をつむる。また成田発が10:25と速いので、関西方面の3人には成田のホテルに前泊してもらう必要があった。
 そうして時間に余裕を持たせたにもかかわらず、空港で借出したレンタカーが5キロも走らないうちに、高速道路(アウトバーン)上で故障してしまった。クラッチが滑って走れなくなったのである。6人のうち一人だけが持っていた海外でも使える電話をどうにか設定し、レンタカー会社のサービスにつなぐことができた。しかしアウトバーンが結構複雑に分岐しているので、現在位置をなかなかうまく伝えることができない。たまたま走ってきた空のタクシーを捕まえて、運転手に頼んで位置を伝えてもらった。ちょうどそのとき警察がやってきた。監視カメラで道路脇をうろうろしている我々を見つけて駆け付けたのだそうだ。運よく監視カメラが近くにあったものだ。警察もレンタカー会社と話をつけてくれ、「30分後にレッカー車がくるから待ってなさい」と告げて立ち去った。タクシードライバーにも「ダンケ・ダンケ」と唯一知っているドイツ語を連発しながらチップを渡した。
 レッカー車がやってきて、我々が乗ったまま車を載せて空港の近くの整備工場に運ばれた。高い位置からの眺めはまた新鮮である。整備工場で代替車がやってくるのを待った。代替車はベンツの9人乗りワゴン車で、当初の7人乗りより楽に荷物を積むことができた。それはよかったのだが、今度は予約していた温泉ホテルに、「遅くなるけれどもレストランは開いているか?」などと片言電話をしなくてはならなかった。モルシャッハは空港からは100キロほどで、高速が繋がったから以前来た時より早く着ける。それでもホテルに着いたのは9時半で、おなかも空いていたし、残念ながら温泉に浸かる時間はなかった。
 翌朝7時にオープンする浴場に一番で浸かりに行った。温泉館はホテルの部屋からは道路を隔てた向かいにある。部屋で水着を着てその上にバーデマントル(バスローブ)を羽織って行く。残雪が朝日に光る岩峰を望むお気に入りの露天で目を醒ました。
 この日は良く晴れていた。宿をチェックアウトし、出がけに湖と岩山を望む高台に登って改めてスイスを実感した。

アルプス展望と古城

 前回モルシャッハに泊まった時も、翌日はシグリスヴィルへ行った。その折の旅のテーマにはアルペンドライブが入っていたので、フルカ峠、グリムゼル峠というスイス三大峠の二つを越えて行った。今回のテーマは山の展望とお城だからルツェルンの隣町のクリーンスまではアウトバーンで行った。クリーンスにはスイスの由緒ある展望台ピラタス山に昇るロープウエーの乗り場がある。信州・蓼科に「日本ピラタス」というロープウエーがあるがその元祖である。この日は天気が良かったので迷わずゴンドラに乗った。
 ピラタス山は標高こそ2千メートルそこそこで高くはないが、ベルナ―オーバーラントの山々を一望できる優れた展望台である。期待にたがわずユンクフラウ・アイガー・シュレックホルンなど名だたるアルプスの名峰が眼前に開けていた。先ずは山好きとしては感動である。
 クリーンスのロープウエー乗り場の近くの高台にお城がある。シャデンゼー城といってゴンドラに乗ったらすぐ下に見えた。なかなか格好の良い城である。山から下りて今度は今回の旅の重要なテーマであるお城へ行った。今回の旅では25の古城を訪ねたがその最初の城である。大きくはないがルツェルン湖を見下ろす高台に聳える立派な城(シュロッス)である。だがプライベートなものらしく、石楠花が満開の庭から塔を見上げただけでお城の中には入れてはもらえなかった。
 メンバーの中に鉄道ファンがいたのでブリエンツに下っていった。可愛い蒸気機関車が押して登るブリエンツ・ロートホルン鉄道の乗り場がある町である。しかし季節的に運休中で、ラックレールがいきなり急角度で山に向かっているのは見たが機関車を観ることはできなかった。
 ブリエンツ湖の北岸を走ってインターラーケンを通り過ぎ、南隣のヴィルダースヴィルにあるウンスプンネ城址へ行った。二つ目の城である。石組の廃墟で、テラスからは白銀に輝くユンクフラウとメンヒが大きく聳えているのが見える。古城評論家は廃墟が好みのようだし、山好きには素晴らしい立地の城だ。

シグリスヴィル温泉再訪

 前回泊まったのは5年前だが、道は憶えていた。トゥーン湖の北岸の高台にある温泉である。前回女将(マダム)とツーショットした写真を持参してリピータであることを強調したら、すぐに女将がにこにこと現れてウエルカムドリンクをサービスしてくれた。日本の温泉では女将がにこにこと客を迎えるのはごく普通の事だが、海外の温泉ホテルでは初めてのことで嬉しかった。
 早速温泉に浸かった。浴室には食塩泉の大きなプールと噴流の付いたホイールバスがあるが、新たに炭酸泉の展望露天が設えられていた。この日は晴れていたので露天からはユンクフラウから西に連なるベルナ―オーバーラントの山並みが一望できた。とりわけユンクフラウというアルプス屈指の名峰を望む露天は、望岳温泉としては間違いなく5つ星である。
 夕食は女将が展望の利くテラスに席を取っておいてくれた。スイスの初夏の日はめっぽう長い。乾杯の時のアルプスはまだ白銀だったが、やがて皆の顔色と同じように山も夕陽に赤く染まり、デザートを注文するころにはようやく日も暮れ、ユンクフラウヨッホ駅に灯った明かりが見えた。スイスの温泉、万歳である。

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