国際温泉評論家 山本正隆のココシカ温泉談義
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白神山地周辺の秋色と温泉を訪ねて (2012/10)

       <杣温泉・みちのく温泉・嶽温泉・日景温泉>


森吉山の秘湯 <杣温泉>

 白神山地とその周辺の秋色を訪ねて温泉に浸かる三泊四日の旅をした。新幹線で盛岡まで行き、そこで車を借りて山地をドライブしようとしたのである。まず初日は秋田の名山・森吉山の紅葉が美しいかも知れないと思い、杣温泉へ泊まりに行った。杣温泉には森吉山にスキー場が出来た頃、スキーの宿として泊まったことがある。もう20年以上前のことである。いい露天風呂のあると聞いていたのだが、その時は雪に覆われていて浸かることはできなかった。その時の残念な思いが心に残っていて、今回旅の宿に杣温泉を選ばせた。
 盛岡駅前からレンタカーで東北道に乗り、鹿角八幡平インターで降りれば、そこからは1時間半の山道ドライブで温泉に着ける。盛岡からは約3時間であった。途中に比内地鶏の産地があったりしたが、県道309号の紅葉はようやく始まろうとしている段階で、ただハードな山道であった。登り詰めたところに、森吉ダムで堰き止められた大平湖の展望台があった。今年の東北も雨が少なかったと見え、水はダムの底の方に少しばかり。遠くに見える森吉山の斜面は紅葉が進んでいるようだったが、夕刻だから逆光で定かでない。
 杣温泉は秘湯としてつとに有名だが、地籍は湯の沢というらしい。能代で日本海に注ぐ米代川の支流阿仁川、そのまた支流の小又川に流れこむ沢が「湯ノ沢」である。地名になっているのだから古くから湯が湧いていたのだろうが、昨年の3.11大地震で温泉の湧出が止まってしまったという。一年以上休業していたが、ポンプを入れて今年ようやく再開したとか。名湯の誉れ高いお湯の質には変わりはないそうだ。
 宿から30米程離れた露天には「日本秘湯を守る会」の大提灯が懸っていた。渓流側には一部目隠しがあるが、山側はブナの大木の枝に覆われるような構えで、奥から小さな沢も流れ込み、実に混浴に相応しいロケーションである。pH8.5、ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸泉だという透明のお湯が掛け流されていて、注ぎ口には飲泉用のカップが置いてある。癖もなく適度の塩分があって飲みやすい。54℃の高温だが、露天風呂が広いので長湯ができる程度の適温になっている。
 因みに内湯は男女別で、湯舟が大きくないので結構熱い。冷水を入れる蛇口はあるが、水の出が悪いので冷ますのもままならない。とても長湯は出来ないのでつい露天の方に足が向く。

夕陽が美しい <
みちのく温泉>

 白神山地が世界遺産に登録されて人気が出てきた。ブナ林は新緑の頃も美しいのだが、紅葉も美しかろうと「白神ライン」を走ってみようと思った。盛岡で車を借り、森吉山の杣温泉に泊まった翌日、秋田県の二ツ井から県道317号を青森県の西目屋に向けて登って行った。途中、藤里町の「世界遺産センター」で教えてもらった、一般に立ち入ることができるところで一番美しいブナ林があるという「岳岱自然観察教育林」に寄ってみた。なるほどそこにはブナの美林があり、「白神のシンボル」と称する樹齢400年の巨木もあった。
 釣瓶落峠は紅葉写真の定番スポットである。県境のトンネルの手前にちゃんと写真撮影用の駐車スペースがあった。最盛期にはちょっと早いようだったが、日があたると鮮やかな秋色をしていた。西目屋に入って大きな駐車場がある「アクアグリーンビレッジANMON」という施設でランチを摂った。そこから「白神ライン」は未舗装になる。津軽峠では「マザーツリー」と称するブナの巨木を観た。青森県側の白神山地シンボル巨木らしい。これも樹齢は400年という。
「白神ライン」は曲がりくねりながら更に二つの峠を越えて日本海に出る。手前の天狗峠には10台くらいの消防車とパトカーが駐まっていた。きのこ狩りの行方不明者を捜索しているのだとか。そういえば朝テレビで報道していた。白神ライン約55キロの行程のうち、43キロは未舗装の砂利道である。久々の長距離ワインディングダートで、ハンドルをしっかり握っての運転は面白かったが疲れた。観光スポット「十二湖」へも寄ったが、五つの湖を横目でみながら素通りし、海に沈む夕陽を期待して温泉へと急いだ。
「白神ライン」が日本海まで下りたところは深浦町である。温泉は黄金崎の不老不死温泉が有名だが、昔行ったことがあり、また人気が出すぎて俗化したとの評判で、今回は近くの「みちのく温泉」に予約を入れていた。「みちのく温泉」は海を見下ろす高台にあった。日没は5時ごろだという。間にあってよかった。真西が日本海なので夕陽を望むには絶好のロケーションだ。
温泉は海に向かった展望内湯とすぐ外に露天が、更につっかけを履いて庭に降りた先に青森ヒバ造りの屋根付きと石造りの望洋露天があって、大量のお湯が掛け流されている。源泉は「艫作(へなし)温泉」といい不老不死温泉と同じく茶褐色をしている。湯に浸かって沈む夕陽を眺めている間に、眼の下を鉄っちゃん憧れの五能線が通って行った。露天があることを知っていれば乗客は窓から見上げてビーナス像を拝むことができそうだ。それはともかく、真っ赤な夕陽に顔を染めながら温泉に浸かるという至福の一時を過ごすことができた。

紅葉の岩木山麓 <嶽温泉> 

 「みちのく温泉」を発って海岸を北上していると「日本の夕陽百選」に選ばれたという千畳敷というポイントがあった。奇岩に白波が砕ける様は良かったものの、風が強くて写真一枚で車に逃げ込んだ。鰺ヶ沢で右折して岩木山に向かった。途中「ミニ白神」という標識を見つけて寄ってみた。「ブナ林散策ゾーン」と銘打っているが、散歩道はアップダウンがあり、ぬかるんでいるというので割愛した。
  岩木山には「津軽岩木スカイライン」という連続カーブで有名なドライブウエーがある。以前購入したばかりの新車の性能を確認したくて登ったことがあるのだが、今回は下から見上げて紅葉が綺麗そうだったので登ってみた。白神山地の紅葉は尚早だったが、岩木山は標高が高く好く色づいていた。スカイラインは八合目(標高1250m)の駐車場まで700mの標高差を69のヘヤピンカーブで一気に登るのであるが、登るにつれて色付きが良くなり第40カーブ辺の秋色は盛りで素晴らしかった。もともと紅葉は今回の旅のテーマだったので、大いに達成感を得ることができたのである。
 八合目は丁度森林限界で、そこから上は雲に見え隠れしていたが、薄く雪が残っており時折霰もぱらついたりした。裾野を見下ろすと日本海まで紅葉から緑までのグラデーションの斜面が見渡せる。しかし寒いので長居は出来ない。ゆっくりと紅葉を愛でながら降りて、すぐ近くの温泉に行き食事もした。
 スカイラインの登り口の近くに津軽の名湯・嶽温泉がある。「だけおんせん」は福島の安達太良山麓にもあり、そちらは「岳」でよいのだが、津軽のは「嶽」でなければならないらしい。しかしお湯は酸性の硫黄泉でどちらもよく似ている。温泉街に入って最初に目についた「山のホテル」に車を駐めた。このホテルには「マタギ亭」という食堂があって、「マタギ飯(釜飯)」を注文すると、お湯に浸かって出てきたころに丁度炊き上がっているという仕組みになっている。「マタギ亭」「マタギ飯」の名はこの温泉が320年の昔、マタギによって発見されたことに因んでいるという。
 このホテルには別に宿泊者専用の立派な浴室があるらしいが、立ち寄り用の浴室は小ぢんまりしたものだった。しかし浴室の壁、浴槽、それに流しの床がすべて青森ヒバ造りで格調は高い。かけ流しのお湯も適温に設定されていてのんびりと浸かることができた。また湯上りのマタギ飯はなかなか美味であった。

秋田杉の中の湯源郷 <日景温泉>

 嶽温泉で立ち寄り湯と昼食を摂った後、弘前に向かって先ず岩木山神社に参拝した。素晴らしい紅葉を魅せて頂いたことへのお礼の仁義である。この神社は鳥居の上に山の字形の「お岩木山」が聳えているのである。それから市街地に出て「市立観光館」の地下駐車場に車を駐めて弘前城を観た。観たといっても追手門から入場し、観光パンフレットなどで馴染の天守をカメラに収めただけである。1時間以内ということで駐車料は無料だった。
 秘湯として有名な日景温泉は秋田県ながら弘前からは30キロほどで1時間かからなかった。国道7号を南下して青森県に入った所で右折して細い道を山の中へ入って行く。いきなり秋田杉の深くて暗い森の中へ入り込み、なるほど日景だと納得したのだが宿の辺りは少し開けていて夕陽が当たっていた。因みに明治26年に開湯したのが日景氏で今でも末裔が経営しているらしい。
 日景温泉の売りは開湯当時「東北の草津」と称されたというお湯もさることながら、昭和60年に改装したという青森ヒバと秋田杉で造られた広い浴室と浴槽である。改装から30年近く経った現在は浴室にも貫禄が出てきており、玄関に掲げられた「日本の秘湯を守る会」の提灯がよく似合っている。男女の浴室を隔てる中庭いっぱいに露天が造られている。女性専用の時間が設けられてはいるが、普通は混浴で、またそれが当たり前といった雰囲気の秘湯である。弘前から思ったより近かったので、明るいうちに湯に浸かることができた。露天から見上げると、秋田杉の森の上に三日月が残っていた。
 翌日は日景温泉からは30分で行ける小坂町へ寄った。小坂は明治時代に日本一の鉱山として栄えた町で、街の中心部に国の重要文化財に指定されている「旧小坂鉱山事務所」や鉱山の厚生施設だった「康楽館」が、西洋の公園を思わせるスマートな形に配置されている。また廃線になった小坂鉄道の駅もあり鉄ちゃんにも人気があるらしい。鉱山事務所の二階にあるレトロ調レストラン「あかしあ亭」で珈琲を喫して古き良き時代に思いを馳せた。
 小坂ICで高速に乗ると一時間半で盛岡に着く。車を返してから駅弁を買って東京行きの「こまち」に乗った。今回の旅のテーマだった「白神山地周辺の秋色と温泉」に関してはほぼ目標を達成した。巨木にパワーを貰ったし、鮮やかな紅葉の中を車で走った。四つの秘湯に浸かったので温泉好きとしても実に楽しく満足のいく旅だった。

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