更に先に「自律神経失調治療」と称する泥池があった。頭にシャワーキャップを被り、体にバスタオルを巻いたおばさんの一団が庭を横切ってそちらへ入りに行った。つられてそちらにも行ってみた。そこは温度も適温で、泥も一段と濃い。別府では湯が噴出しているところを地獄と呼ぶようで、八つの地獄を巡るツアーなどがある。ここの泥湯は八つの地獄には入っていないが、もともと紺屋地獄という噴出池だったらしい。それがそのまま入浴施設になったのだろうか。今でもぼこぼこと泥湯が湧き出してる。
泥湯というと秋田に泥湯温泉という秘湯がある。しかし単に泥色をした濁り湯である。九州には霧島の「さくらさくら温泉」が泥パックを売りにしている。また阿蘇山麓の地獄温泉にも泥湯がある。しかしいずれも浴槽に沈殿している泥は多くない。ところがここのの温泉では浴槽の底に20センチくらいの泥が堆積している。湯に浸かって腰を下ろすと、お尻の感触が未体験の独特さで、もしかして病み付きになりそうだ。
泥池を二分するように手すりの棒があり、それを境に男女が分かれているのだが、目隠しがあるわけではないのでいわゆる混浴と変わりはない。先に入って行ったおばさんたちは身体に泥を塗りたくっている。顔も目と口元を残して泥が塗られ、さながら仮面を被ったベネチアのカーニバルのようだ。真似して泥を手で掬って体に塗ってみたが、今更肌を磨く必要もないし、特にそれが気持ち良いというものでもない。最後は瀧湯と称する打たせ湯で表面の泥を落とし、蒸し湯で汗を出して毛穴に浸み込んだ泥を落とした。
泥湯から出て、明礬温泉の表に噴気が上がっているレストランで温泉卵が掛っている「温玉うどん」を食した。明礬温泉から坂を下ると鉄輪温泉地区で辺りには観光ポイントになっている八つの地獄がある。食後にそれらの中から「海地獄」、「血の池地獄」それに「龍巻地獄」を見物した。龍巻地獄は40分間隔で噴出する間欠泉だから、運が悪いと長く待たねばならない。ベンチに座ってアイスを舐めながら待った。間欠泉の語源(英語の)になったアイスランドのゲイサーに比べるべくもないが、待つ甲斐のあった結構な迫力の噴出だった。
後は高速に乗って一気に福岡に帰った。一泊のプチ旅だったが、泊まった宿には美人女将がいたし、浸かった温泉はそれぞれ質の高い特徴のあるものだったので、温泉好きとしては大いに充実感のある旅であった。