国際温泉評論家 山本正隆のココシカ温泉談義
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九州縦断温泉の旅



    良い露天風呂がある温泉を求めて長崎から天草を経由して南端の指宿まで車を借りてドライブした。浸かった温泉は雲仙、湯の児、指宿、霧島それにえびの高原の5か所である。
いずれの温泉にも解放感たっぷりの雰囲気のよい露天があって、温泉好きとしては大いに満足した旅だった。
雲仙温泉 <富貴屋>

  長崎の周辺にはいくつかの名湯がある。長崎には親戚があるので、慶事や法事などで何度か行く機会があった。その折に嬉野、武雄、小浜などの温泉に泊まったことがあるが、何故かメジャーな温泉地・雲仙には泊まったことがなかった。今回は白寿を迎えた伯母のご機嫌伺いに行って、やっと心残りになっていた雲仙に泊まることができた。
 長崎から国道34号を諫早まで戻り、国道57に分かれて島原半島の付け根を東に進むと正面に雲仙岳の大きな山塊が見えてくる。主峰・平成新山の標高は1,483mで長崎県の最高峰だそうだ。温泉は丁度中腹に当たる位置にあるので標高差約700米を登らねばならない。アクセルを踏み込む足に力が入る。ネットで調べて良い露天がありそうなので予約した旅館「富貴屋」は、国道に面した温泉神社の隣の分かりやすいところにあった。
 富貴屋の浴室は、玄関を出て駐車場を挟んで向かいにある。2階に渡り廊下が付いているので外に出なくても行くことはできる。内湯の浴室は総ガラス張りになっておりその外に露天がある。写真で見て想像していたほど大きくはなかったが、期待通り造りの良い露天である。宿の裏側は「雲仙地獄」といって、あちこちに湯が噴出し噴気が上がっている。露天からもその白い噴気が見える。湯は2ヵ所から流れこんでいる。「雲仙乳白の湯」というのが源泉名で、その名の通りやや白濁した硫黄泉である。pH2.7という強酸性で草津の湯に似ている。週末だったにもかかわらず露天は貸切状態で、お蔭でのんびりと名湯を楽しむことができた。

湯の児温泉 <昇陽館>

 雲仙温泉に泊まった翌日、小雨の降る中を口之津港から天草行きのフェリーに乗るべく、国道389号を急いで南へ下った。山の中のワインディング道路で、国道とはいえ車はほとんど走っていなくて快適に飛ばせる。港に着いてみると目指していた便は、船がドック入りで欠航という想定外の事態。次の便までの時間つぶしに海岸をドライブしていて、加津佐という町の港で「いるかウォッチング」の看板が目についた。「いるかウォッチング」は天草だと思っていたが、イルカの生息地域がちょうど島原半島と天草の間の早崎瀬戸だということで、ウォッチング船は島原側からも出ているのだそうだ。イルカはたとえ雨が降っていようと98%の確率で観ることができるという船頭の言葉に乗せられ船に乗ってみることにした。
 船は一直線に南の天草に向かってスピードを上げる。船頭はしきりと双眼鏡をのぞいていたが、天草の陸地が目前に迫ったころ「居ますよ」と急にスピードを緩めた。天草側からのウォッチング船もすでに集まっている。それらの船の間を、群れてすいすいといわゆるドルフィンキックで泳いでいる。この周辺に200頭くらいのイルカが生息しているのだそうだが、その半分くらいはいたのだろうか。
 長島からは大きな橋で九州本島に渡り、国道3号を北上して再度熊本県に戻った。県境からほどなく水俣で、国道から分かれて海岸道路をしばらく走ると目的地・湯の児温泉があり、予約していた「昇陽館」はすぐに目についた。
 温泉情報誌で「昇陽館」には絶景望洋庭園露天があることを知り、電話で予約を入れておいたのだ。その露天は「五色岩の湯」と言い、赤、青、緑、白、黒とはっきり色分けできる大きな銘石を配した日本庭園風の大きな岩風呂だった。造りと言い、不知火海を望む立地と言い、文句なく五つ星露天である。お湯は自家源泉を持っているようでほぼ透明なナトリウム・炭酸水素塩泉が掛け流されている。庭園を奥に進むと「木かげの石風呂」と名付けられた巨岩を刳り貫いた浴槽もあった。
 「ほらあな風呂」と称して貸切で使える天然洞窟湯もある。洞窟の壁を伝って湯がながされていて、その壁も湯船も温泉から析出した石灰で覆われており、胎内回帰型のパワースポットになっている。この他にも「ひのきの湯」という展望貸切風呂があり、さらに庭を少し歩いた別館に「亀寿の湯」と名付けられた展望大浴場もある。もちろん本館には普通の内風呂もあるのでつごう五か所の温泉を楽しむことができる。なお前述の「五色岩の湯」は男性湯であるが、宿の4階から出て裏山を少し登ったところに「華紋の湯」という「五色岩の湯」に劣らない造りと展望の女性湯があることは評価すべきであろう。

指宿温泉 <指宿ロイヤルホテル>

 湯の児温泉で絶景露天に浸かった後、南に下って南端の温泉「指宿」に向かった。国道3号に出て南下を始め、出水市は国道を離れて「オレンジロード」をバイパスに使った。少々遠回りだが信号が無いので走りやすいとのことだ。国道に戻って、地球の丸いのが分かる東シナ海に面した「阿久津道の駅」で珈琲ブレイクをした。「いちき串木野市」に入って3号線から270号線に分かれ、真っ直ぐ枕崎に向かった。海岸を走る区間は少なく、山林の相に南国の趣があるものの特筆すべき面白さもないまま枕崎に着いた。
 「枕崎」は、北は稚内に始まる鉄道の南の終着駅として、また台風の上陸地点としてその名を知っている。港にある「お魚センター」の二階にある「展望レストラン」で海鮮丼を食べた。展望と言っても漁船がいっぱいもやってある港と、その向こうに倉庫が見えるだけである。しかし海鮮は文字通り新鮮で美味しかった。
 枕崎から国道226号を東に向かうとやがて前方に端正な円錐形をした開聞岳(924m)が見えてくる。開聞岳は百名山の中では筑波山に次いで2番目に低い山だが、海面からいきなり立ち上がっているので仰ぎ見ると立派な山に見える。頂上付近に霧がかかっていたから余計に立派に見えたのかもしれない。
 実は指宿にはずいぶん昔に泊まったことがあった。しかしその宿は思い出せない。従って今回はネットで調べて良さそうな露天風呂のある「指宿ロイヤルホテル」に予約を入れていた。ホテルは鹿児島湾(錦江湾)の湾口地区の海岸に建っていて、南側は大隅半島先端の彼方に東シナ海が見えている。また西側には開聞岳を望むという素晴らしい立地である。
 期待した露天はロビーの奥から続いている「古毛曾湯」と大書された衝立のある温泉館にあった。源泉が「古毛曾」という地籍にあるかららしいが、そのむかし虚無僧が湯あみをしていた処というのが地名の由来とか。しかし露天は名前の由緒に似合わずモダンな造りで、海側には目隠しの無いなかなか感じの良い望洋温泉である。宿の選択は当たりだったと喜んだ。

霧島温泉郷 <旅行人山荘>

指宿のホテルには気持ちの好い望洋露天があったので、朝食後、チェックアウトの前にも一風呂浴びた。指宿からは錦江湾の海岸線を北上して途中にあった「今和泉」に寄ってみた。先年テレビで放映された大河ドラマのヒロイン「篤姫」の実家、今和泉島津家の屋敷跡がある。大きくて立派な駐車場が造られていたが人影はない。観光に耐えるだけの遺跡があるわけではないので、人気は一過性だったのかもしれない。
頴娃(えい)街道(R226)を北上し、鹿児島が近づいたあたりで小高い丘の上にロケットが立っているのが見えた。何だろうと気になったので街道を離れて丘に登ってみた。丘は「錦江湾公園」になっていてロケットは公園の中のモニュメントとして建てられたものらしい。晴れていれば湾の向こうに噴煙を上げる桜島がのぞめるらしいが、あいにく霞んでいてそれもかなわない。近くの谷山ICから九州道に入り、鹿児島空港ICで降りた。霧島方面に行くべく国道223に渡って、前年立ち寄った龍馬ゆかりの「塩浸温泉」を横目で見ながら谷を登って行った。
九州道の桜島SAで休憩した折、そこのインフォメーションで入手したチラシで見つけた霧島温泉郷の「旅行人山荘」というホテルで立ち寄り湯をした。混浴評論家のY女史が著書で「パワースポット温泉」として紹介していたのを読んだことがあった。変わった名前のホテルだなと思ったので頭に残っていたのである。目立たない看板を見つけて山の中へ登っていくと「山荘」という名前からは予想しなかったモダンな造りのホテルがあった。
これも予想外だったが、中に入るとフロントで二人の美人ににっこりと迎えられた。「貸切露天は如何ですか?」と勧められ四つの浴槽の写真を見せられた。前述の本で見たのはこれだと「赤松の湯」を選んだら「一番人気ですよ」とのこと。美人の一人が内湯の前を通り庭に出て、赤松の湯のゲートの前まで案内してくれた。ゲートからは良く茂った林の中を下って行った先に脱衣小屋があった。裸になって小屋を出ると、貸切にしては意外な大きい石造りの二つ繋がった湯舟が、茂った林の中にあった。目隠しはないので雰囲気は自然と一体感である。温泉は「丸尾温泉」というらしく硫黄泉で、やや白濁したお湯が掛け流されている。冬に鹿を追っていた狩人が大鹿と一緒にお湯に浸かった夢を見た翌日、鹿の足跡を辿って発見したという源泉だとか。湯から帰り道で二頭の鹿に遭ったので、源泉発見の話は本当だったのだと思えた。
 「錦江の湯」という内湯にも入ってみた。こちらは少し高台になっており、露天から桜島を望むことができるという。
 
えびの高原温泉 <えびの高原荘>

 霧島温泉郷の丸尾温泉で立ち寄り湯をした後、「きりしまスカイライン(県道1号)」を登ってえびの高原へ向かった。霧島地区では湯けむりを揚げるホテルの間を縫って登って行くも、高原に入ると濃い霧でかろうじて先行車のテールライトが見えるというのろのろ運転。予約していた「えびの高原荘」も道路脇の看板でやっと見つけた。
 「えびの高原荘」は県営だが、温泉ホテルとして温泉好きをもてなす姿勢は見せている。長く伸びた建物の端に、宿泊者専用の貸切露天が造られていた。赤松林に向かって目隠しがなく、結構大きな造りのよい岩風呂で雰囲気は良い。湯は薄く濁っているようだが透明性は高い。炭酸水素塩泉ということだが、お湯が注がれている岩が赤く染まっているので鉄分が含まれているのだろう。
 フロントに近いところに外来も受け入れている大浴場がある。以前は韓国岳を望む絶景露天だったという記憶があるが、リニューアルされてかなり高い目隠しが出来た。それでも庭は広く、褐色の岩で囲まれた造りの良い湯船があるので問題はない。閑散期だったからか相客が居ないことが多く、貸切露天に行くまでもなくのんびりと湯に浸かることができた。
 
 翌日は霧の中をそろそろと山を下り、えびのICから九州道に乗って熊本へ行った。熊本で借りた車を返し、熊本空港から羽田に飛んで横浜へ帰った。広島での墓参りも加えて5泊6日の旅だった。

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